2023年2月26日日曜日

2月に読んだ本

 私の今年の目標のひとつに、「本を買わない」という目標らしくない目標があります。本はたくさん読んだほうがいいイメージがあるから、普通ならば本は買ったほうがいいのでしょうが、私の場合は買ったのに読んでいない俗にいう「積読本」が山のようにあって(実際には電子書籍だから積んでもいないし山にもなっていませんが)、その上に図書館で借りて読もうと思っている本が何十冊(いや何百冊かも)もあり、これ以上本を買っても一生のうちに読めるかどうかも分からない状態なのです。それなのに、今月は5冊も買ってしまいました。読みたかった本が大安売りになっていたり、10ドル以上の本を買えば3ドル分のポイントがもらえるという口車にまんまと乗せられて、図書館で半年以上待ちの本を買ってしまったり、ポイントの有効期限が切れる前に使わなければと欲張ったりと、本はどんどん増えていきます。もう病気だな、これは。

では、月末なので今月読んだ本のことを書きましょう。

1.Euphoria– Lily King / ユーフォリア - リリー・キング(邦訳なし)

アメリカの有名な文化人類学者、マーガレット・ミードをモデルにした小説。マーガレット・ミードは3回結婚していて、この小説に登場するのは2番目と3番目の結婚相手です。ニューギニアの奥地でフィールドワークを始めるネル(ミードがモデル)とフェンの夫婦と、すでに現地で研究を進めていて、ずっと孤独に苛まれていた人類学者バンクソンとの三角関係を描いた物語です。ミードは大学時代の女性教官で自らも有名な人類学者であったルース・ベネディクトと同性愛関係にあったと言われており、それをほのめかす描写もこの小説の中に出てきます。この作品はマーガレット・ミードの伝記をもとに構成を立てたと著者は書いていますが、フィクションなので結末は事実とは異なるものになっています。ニューギニアに興味があって、マーガレット・ミードの著作も読んだことがあったので、小説という形でその背景を垣間見ることができ、物語に惹き込まれました。

2.流転の王妃の昭和史 愛新覚羅浩

本棚の整理をしていたらこの文庫本が出てきたのだけれど、相当昔に買った覚えはあるのに、どうにも読んだ記憶がありません。こんなところにも積読本が…。日本の華族・嵯峨家から清朝の愛新覚羅家に嫁いだ愛新覚羅浩さんの自伝。愛新覚羅家といえば「ラストエンペラー」となった溥儀を思い出しますが、著者が嫁いだのはその実弟の溥傑氏。日本軍、特に関東軍による政略結婚であったにも関わらず、ふたりは真実の愛を育み、幸せな日々を送っていたものの、終戦により溥傑氏は拘束され、著者は幼い次女を連れて流転を重ね、苦難を乗り越えて日本に帰国します。また、夫と音信不通になったまま長い年月を日本で過ごしていた期間に、大学生になった長女が無理心中の道連れになり死亡するという悲劇が起ります。日中戦争や太平洋戦争の激動や満州国という日本の傀儡国家に振り回されながらも、気丈に苦難を乗り越えてきた強い女性の人生が描かれています。ただ、「大地の子」を読んだ後にこの本を読むと、身分が高いことや助けになってくれる権力者の知り合いがいたことなどからも、やはり満州に取り残された一般人とは待遇が違ったようにも思えます。とはいえ、今の私たちには想像を絶する苦難を経験してきたことには変わりありません。

3.Human Acts – Han Kang / 少年が来る - ハン・ガン

「菜食主義者」に続いて読むハン・ガンの2作目。「菜食主義者」ともども日本語訳の本が手に入らなかったので、この「少年が来る」も英訳で読みました。原作は韓国語です。1980年に韓国で起きた光州事件という民主化運動を題材にして、その実態と政府の弾圧、人間の倫理観、当事者たちのその後の苦しみなどをフィクションという形で描いています。私には光州事件の知識がなかったので、読み始める前に簡単に下調べをしました。読者である韓国の人たちには知識があることを前提に書かれていると思ったからです。内容は非常に重く、至る所に死の影が潜んでいます。こんなに凄惨な事件が隣国で起きていたことも、韓国がそう遠くない過去まで民主国家ではなかったことさえも、私は知りませんでした。韓国が今のような豊かな国になるまでには、こうした人々の犠牲があったことをこの作品から知りました。

4.ふたり- 唐沢寿明

はい、俳優の唐沢寿明の自伝/エッセイです。別にファンというわけでもなく、実際には出演ドラマや映画もほとんど見たことがないのに、いったいなぜこの本を読むことになったのかというと、一定期限までにどうしてもポイントを消費しなければいけなかった時に、ポイントだけで買える本だったからです。レビューがことのほか高評価だったことも寄与しました。1990年代後半に出版された本なので、すでに20年以上も経っています。家庭環境がよくなかったことから10代で家を出て自立し、俳優になるためだけに努力をして下積み生活を送り、次第に俳優として成功していったことが綴られています。初めての大役に抜擢された時に、山口智子に出会い、それから結婚するまでのことも書かれていて、家族の愛を知らなかった自分が彼女と家族になってふたりになったと締めくくっています。結婚後間もない頃に書かれた本のようですが、思いのほか良い本でした。文章が上手いこともあるけれど、男性がここまではっきり愛を語れるというのが何か新鮮で、潔さを感じました。町田康が言っていた「自意識を捨てる」とはこういうことなのかもしれないと思ったのでした。





 

2 件のコメント:

  1. Jさん、あいかわらずすごいな~。 これって大まかにいうと 一週間に一冊の割合で読んでるってことなんだよね。Jさんに
    とっては少ない数だったりするんだろうね。
    実は私も電子書籍のアプリ見てみると 6冊ほど一度も読み始めてない本があって、中にはあることさえ覚えていなかったり。
    考えてみるとお隣の韓国や中国の歴史とかも今まであまり興味深く知ろうという気になった事がなかったなあ。
    朝鮮半島が北と南の政権に分かれて北朝鮮と韓国として分離したのは 第二次世界大戦の後なんだね。。。それもロシアとアメリカが結構絡んでいたみたいね。 もっと興味をもたないといけないなって思います。
    唐沢寿明さんと山口智子さん夫婦は今でも よく仲睦まじく手をくんで歩いているところを撮られたりしてますよね。彼が文章力があるというのはちょっぴり意外だけど(なんの根拠もなく。。。)読んでみたいな!
    なんかね、もう今は 気持ちがどんよりする読み物じゃなくて ほっこりしたり、感動するような事を読んだり聞いたりしたいな、って思うんです。ここ数年世の中で起こっているドロドロに疲れてる感じ。

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    1. 電子書籍はとっても便利なんだけど、簡単に購入できるからついつい買ってしまって、読むほうがちっとも追いつかないということになってしまうのよねー。買ったことを忘れちゃったりね。
      私もつい数年前までは韓国やその歴史についてホントに何も知らなかったんだなと思いました。中国のほうがまだ少しは知識があったけれど、知らないことのほうが断然多いし。いろいろなことに興味を持つのも大切なことかもしれませんね。
      本当に近年は病気や戦争や災害など暗い話ばかりで、そういう話題を吹き飛ばすような心に響くものに触れたいという気持ちはよくわかります。私が韓国ドラマばかり観てしまうのも、それに近い感情なのかもしれません。それなのに、読む本は戦争ものが多いんですよねぇ。戦争そのものに関心があるわけじゃなくて、戦争という極限下の心理を知りたいのだと思うけれど。次は何か楽しい本を読みたいな。

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