2023年2月12日日曜日

西部戦線異状なし

先日、この記事を書いて、一度はアップしたものの、こんなにネガティブな感想をわざわざ載せる必要があるだろうかと思い直して、下書きに戻しました。でも、このブログは自分の記録でもあるし、後々、あの時はこんなことを考えていたんだと振り返ることができるように、再びアップすることにしました。それに、この映画は高評価ばかりじゃないということも分かったので。

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Netflixで新作の「西部戦線異状なし」を観ました。

最近は2時間一気に映画を観るのが難しく、新作ラインナップに出てきていたのは知っていたけれど、後回しにしていました。先日、アカデミー賞のノミネート作品が発表になった時に、この映画が多数の部門にノミネートされているのを知り、これは早く見なければと思い立って、週末に見ることにしました。

「西部戦線異状なし」にはちょっとした思い出があります。小学生の頃、おそらく日曜日の昼間、祖父母の家の居間で遊んでいた時に、テレビで「西部戦線異状なし」が放送されていました。私はレゴか何かで遊んでいてテレビを観ていたわけではなかったのだけれど、白黒の映画で、戦争の映画だということは分かっていました。ストーリーは全く理解していなかったものの、そのラストで、主人公が戦場で蝶に手を伸ばして撃たれてしまうというシーンと、それに続く、「西部戦線異状なし」という字幕だったかナレーションだったかが、ずっと心に残っていました。もう少し大きくなってから、それに原作本があるということを知ったのだけれど、当時は翻訳本が大嫌いで、結局読むことはありませんでした。

もともとはドイツ語の小説ですが、ずっとずっと大人になってから英訳でこの本を読み、これまでに制作された1930年版(小学生のときに見た映画)と1979年版の両方の映画を観ました。そして今回のNetflixの映画が3作目です。

結論を言ってしまうと、新作は残念の一言です。

原作のあらすじは、第一次世界大戦がはじまり、ドイツの青年たちは勇んで軍隊への入隊を志願し、主人公とその同級生たちも同様にドイツ人としての誇りをもって入隊を志願するものの、現実は想像とはかけ離れたもので、友だちや戦友を失うことや敵の命を奪うこと、戦争そのものの実態が主人公の心を次第にむしばんでいく、というストーリーです。

新作は、映像の美しさや迫力という点では確かに過去の作品よりはるかに優れていると思います。これが「西部戦線異状なし」というタイトルでなかったら、戦争映画として受け入れられたかもしれません。でも、今回の新作は、原作の一番大事な部分、主人公の心の変化の描写が単純すぎました。例えば、穴の中で自分が刺した瀕死の敵兵と一夜を過ごす(原作では)場面、例えば、負傷した戦友を負ぶって昔話をする場面は、あまりにも淡々としているうえに、帰省して故郷の周囲の人や教師に違和感を覚える場面に至っては、完全に削除されていました(大事な部分なのに)。原作にはない停戦の話も、停戦予定時刻の数十分前に攻撃命令が出て戦死した兵士たちがいたことは真実だけれど、原作とは関係のないそちらがメインになってしまった感が否めないのは残念です。戦争が兵士たちの心をどう変えていくかということをもっと前面に出してほしかった。戦争の悲惨さは十分に伝わってきますが、登場人物たちがただただ茫然としてしまっているだけのように見えて、「西部戦線異状なし」に似た別物を観ているような気がしました。3作目ともなると、前作との違いを明確にしたいという気持ちがあるのかもしれませんが、原作者が本当に伝えたかったことが有耶無耶になってしまったように思います。

本当の「西部戦線異状なし」を知りたい方は、まずは原作を読むことをお勧めします。


 

 

4 件のコメント:

  1. 時代によって視点が変わることが原因なんでしょうか。
    今の人達は戦争そのものに興味があるのですかね。
    視聴後の残念な気持ちを引きずってしまうので実際に小説を読んだ物を映画で見るのは少し躊躇ってしまうところがあります。
    小説を読むのが先か、映画を観るのが先か、またはその逆か。
    私の場合は読んでいるうちに主要人物のイメージを強く持ってしまうからかもしれないですが。
    そういえば大岡昇平の『野火』が映像化されたと知りつつまだ観れていないです。
    これもJさんの今回のご経験同様になりそう。
    質問なのですが、Jさんは本を読まれている時に文章が映像のようにイメージとして浮かばれる方ですか?
    私は割としっかりしたイメージが浮かび、またそれだから本を読むのが楽しいと言えるのですけど、全く浮かばないという人がいることを知って少し驚きがありました。

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    1. 私も本を読んでいる時は文中の描写から勝手に想像して自分なりのイメージを作り上げています。みんな同じなんだろうと思っていましたが、イメージが浮かばない人もいるんですか!? それは確かに驚きです。イメージが浮かばないということが想像できません。
      原作を読んでから映画化されたものを見ると自分のイメージと違っていることが多くてがっかりするし、逆に映画を観てから原作を読むと、登場人物のイメージが映画の俳優さんにしか思えなくなったりします。私は基本的には原作を先に読みたい派ですが、映画を観てから原作があることを知って読んだ本もあります。
      大岡昇平の「野火」は私も読んだことがあって、2年ほど前に日本のNetflixに映画があったのを見た覚えがあります。これも極限下の戦争心理を映画ではどう表現しているのか、興味があります。

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  2. この間(免許更新記事のすぐ前)、この記事が投稿されているのを目撃して 仕事中だったので あとで読ませてもらおうと思って 数時間後チェックしたらもう見れなくて どうしたのかな?って思っていたところでした。
    西武線異常なし、観てみないといけない。。。前回の二作を見た覚えがないし、本も読んでいないのでJさんほど 違和感は感じないかもしれないけど、本を読んでから映画化されたのを観ると自分が思い描いていたのとちょっと違ってがっかりする事がありますよね。
    一作目、二作目、三作目、と原作は同じでも映画自体 観た後の印象がかわってくるのは それぞれのスクリーンライターや監督の伝えたいことが違うってことなんでしょうかね。 そうなると 原作者の映画の感想が聞きたくなりますね。
    確かに戦争というイベントは 健康な精神を蝕んでしまうのはもうやむを得ないですよね。とくに悲劇の場に直面したり経験をした軍人さんや市民にとっては 時が経っても一生頭から離れない部分が残るはず。 その証拠がどれだけの軍人さんが生きて戻ってもPTSDを患って残りの人生をすごしているかだと思います。必要あるはずのない戦争、どうして繰り返されるんでしょうか。

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    1. ネガティブな内容だったので、ちょっと怖気づいて一旦下書きに戻してしまったのですよ。
      新作の「西部戦線異状なし」は原作を読んでいない人には圧倒的に支持されているようです。確かに戦争映画として、戦争の悲惨さや理不尽さは描かれているのです。でも、「西部戦線異状なし」じゃないんだなぁ。原作と映画の本質が別のところにあるから。でも、原作を読んでいないからこそ堪能できる映画なんだと思います。
      今現在も戦争を経験している人が世界にはたくさんいて、それがその人の人生や世界観を負の方向に大きく変えてしまうというのは本当に残念なことです。この映画が平和への一歩になることを願います。

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