2023年3月31日金曜日

3月に読んだ本

気が付けば、月末、そして年度末。では、恒例(?)の読書の話題を。

今月は旅行に出かけたうえに、暖かくなる前にどうしても終わらせなければならない庭仕事などもあって、読書量は控えめでした。タイトルは3つですが、実質は12冊です。そのうち10冊は10巻のマンガだったんですけどね。えへへ。

1.はだしのゲン 中沢啓治

先月だったか、広島市の教育委員会が「はだしのゲン」を平和教育の教材に掲載するのをやめるというニュースをどこかで読んで、そういえば「はだしのゲン」をきちんと読んだことがなかったな、どこかで読めないかな、と探してみたところ、図書館の電子書籍で借りられることがわかりました。

「はだしのゲン」は小学生のときに母がどこかから借りてきたものを半ば強制的に読まされたことがあったのだけれど、原爆投下直後にお父さんと姉弟が家屋の下敷きになってゲンと母親の目の前で焼け死んでしまうシーンや、被爆して皮膚が焼けただれた人たちが街中をさまようシーンなどの描写が小学生だった私にはあまりにもショッキングで、それ以上読み進めることができませんでした。その漫画本が同じ部屋の中にあるというだけで怖かった覚えがあります。夜に飛行機の音が聞こえると、戦争中でもないのに原爆が落ちてくるんじゃないかと不安になったこともありました。だから12巻以降のストーリーは今回読むまで全く知らなかったのだけれど、「はだしのゲン」は単なる被爆体験記ではなく、ゲンや家族や被爆者全体が同じ日本人から受けた差別や、人間の狡さや醜さのようなものをも描き、そうした境遇の中でゲンとその仲間たちがお互いを励まし合いながらたくましく生きていくということに重点を置いた作品でした。

原作者の中沢啓治さんは恐怖心をそそる描写について尋ねられたときに、現実はもっとひどかった、読んだ人が怖いと思ってくれればいい、というような話をされたとどこかで読みました。私の場合、怖すぎてこんな年齢になるまで読めませんでしたが、ロシアが戦術核兵器をベラルーシに配置するという不穏なニュースが聞こえてくる中、世界中の人々に「はだしのゲン」のメッセージが伝わることを願ってやみません。

2.Four Thousand Weeks – Oliver Burkeman/限りある時間の使い方 - オリバー・バークマン

この本のタイトルをどこかで見かけて、時間管理が苦手な私は、こういう本を読んで時間管理術を学ばないと、と図書館で借りようとしたら、待ち時間が半年とのこと。半年待つか、本を買って今すぐ効率よく時間管理をするかという選択のうち、私は後者を選びました。半年も待っている間にどれだけの時間を無駄にすることになるのかと考えたからなのですが、この本には全く逆説的な内容が書かれていました。

タイトルのFour Thousand Weeks4000週)とは、人が80歳まで生きたときに得られる週の数です。直感的に考えると、この4000週に人生でしたいことの全てをどうやって詰め込むかという指南書だと思いますよね。私もそう思っていました。ところが最初から「それは無理」と始まるのです。現代人は限りある時間をいかに有効に使うかというプレッシャーに押しつぶされそうになっていて、手元にあるどうでもいいすぐに出来ることから片付けていくことばかりに集中しているせいで、自分の中で本当に意味のある重要な事柄を後回しにしてしまいがちです。でも、次の瞬間に何が起こるかなんて誰にも分りません。「いつか」なんてもう来ないかもしれないんです。だから時間に限りがあることを認めて、人生の本当の意義を先送りせずに「今」を生きることが大事だということをこの本は教えてくれます。本当の時間管理術というのは、しなくてもいいことを見定めることができるかどうか、なのだそうです。興味深いことがいろいろと書いてあって、哲学的であったりもします。時間に対する通常のアプローチとはずいぶん違って、納得する点も多い本でした。

3.十五の夏(上)- 佐藤優

この本は横浜にいたときに図書館で見かけて気になっていたのだけれど、ずいぶん厚い上下巻で一冊を2週間で読み切れるかどうかわからずに先送りしているうちにアメリカに戻ってきてしまいました。今回、電子書籍が半額セールになっていたので買ってみました。

佐藤優という人の名前を初めて見たのは、米原万里のエッセイか読書案内本だったように思います。元外交官でロシア専門家だということぐらいしか知りませんが、これはその著者が15歳の夏に単独で東欧と当時のソ連を旅した時の回想録です。上巻には主に東欧諸国のことが書かれています。1975年のことで、当時の東欧諸国の多くは共産主義・社会主義国だったことから入国手続きなどもかなり煩雑だったようですが、それを15歳の中学生が一人でやってのけ、片言の英語で旅を続ける姿はあっぱれです。ホテルやユースホステルなどの滞在先で出会った人たちに積極的に話しかけて様々な国の事情や話を聞き、ハンガリーでは文通相手の家に泊まって家庭生活を経験します。当時のソ連や東欧諸国はおそらく今の北朝鮮のように闇に包まれた部分が多かったはずだから、それを実際に見て体験したことは非常に希少なことでもあり、それが後々の彼の人生に多大な影響を及ぼしたのであろうことは明白です。また、優秀であったことはもちろんのこと、なんてしっかりした15歳なんだろうと驚きます。

私は東欧の旧共産圏の国はチェコしか訪れたことがなく、すでに民主化されたチェコ、特にプラハはヨーロッパでも屈指の美しい街で親切な人が多かったと思ったのだけれど、著者はチェコスロバキアでの対応が気に入らず、全く良い印象がないと言っています。国によっても自由度に違いがあったようだけれど、概して東欧圏の人々は、資本主義国のような物質的な豊かさはなくても、暮らしに満足していて幸せそうだというようなことが書かれていました。東欧諸国の多くが民主化した今、個人の体験からこうした時代があったことを知ることができる良い本でした。下巻のソ連編に続きます。

4.おまけ:黒鳥-ブラックスワン 山岸涼子

4月に「白鳥の湖」のバレエ公演に行くので予習に、と思ってこの短編マンガを読んでみたのだけれど、黒鳥とも白鳥の湖ともあまり関係のないジョージ・バランシンの女性関係の話でした。「白鳥の湖」は有吉京子の「SWAN白鳥」を何度も読み返してストーリーも見どころも押さえているから、まぁ、いいか。「SWAN白鳥」にも登場するバランシンにそういう過去があったということを興味深く読みました。バレエとは関係ないけれど、他に収録されている短編も面白い作品でした。





 

2 件のコメント:

  1. はだしのゲン、本を読んだのか 動画で見たのかさえ覚えていません。 ほんとに、あれだけ戦争という名の上で 一瞬のうちに罪のない大勢の人の命を奪って、街を破壊して、残された人達とその子孫までもが原爆の被害をうけているというのに いまだに原子爆弾を盾に脅しを掛けあう世の中のリーダー達。。。
    人生が4000週、一週間があっという間に過ぎるのを考えると80年もそれほど長くはないのかも。それが私達の様な年齢になると特に早く感じるんでしょうね。
    時間を無駄に過ごさないためにもこの本、読んでみたいな。
    チェコ、行ったことがないけど25年ほど前にNYのアップステイとに住んでいた頃にチェコからの移民ファミリーと、ハンガリーからの移民ファミリーとお友達になりました。両方ともとても素朴で、ハンガリー人の奥さんは一日中キッチンにいて、なんでもスクラッチからお料理をする優しい人でした。うちの子供達とその二家族のお子さんたちの年齢が近かった事もあってとてもよくしてもらいました。 
    こないだのWBCでもチェコチームの選手達、とてもいい感じでしたよね。やっぱり どこの国でも人によるんでしょうか。

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    1. 私たちの世代は少なからずどこかで「はだしのゲン」に触れる機会がありましたよね。昭和の時代にはまだ戦争の記憶が残っていて反戦の世論も多かったけれど、その記憶が薄れてきたからなのか、なんだか不穏な世の中になってきましたね。だからこそ「はだしのゲン」は読み継がれていくべきなんじゃないかと思いますが…。
      人生が4000週と聞くと、長いのか、短いのか、微妙な気がします。要は、人生は有限なんだからどうでもいいことをしている時間はないんだよ、ということなんでしょうね。もう人生の半分に達してしまった私たちは特に。(^^;)
      旅行をしていてその土地の印象を決めるもののひとつは事務的なことや受付けでのやり取りだと思うんです。たまたま愛想の悪い人に当たってしまったということもあるとは思うんだけど、そういう意味で私が良い印象を持てなかったのはパリでした。だから佐藤優さんの言うこともよく分かるんです。パリやプラハの人みんなが不愛想なわけじゃないんだけど、第一印象というのはなかなか払拭できないのかもしれませんね。

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